困難な時代に求められる「総合的」な解決力
2020年に始まったコロナ危機では、様々な問題が生じました。未知の感染症への初動、行政機関との連携、公衆衛生システムの破綻、大都市圏での病床の不足、緊急時の検査体制、医療収入の低下など、一分野一領域では扱えない問題ばかりです。重症者は、基礎疾患を有する高齢者に多く、海外では医療機関に入院できない場合に「命」の選別ということも考えなくてはいけなくなりました。コロナ危機が去った後も、私たちは、国民の4人に1人が後期高齢者になる「2025年問題」に直面します。後期高齢者は糖尿病、心不全、フレイルなど複数の持病を持ち、時に誤嚥性肺炎や脳卒中を起こすなど、一人の患者さんに急性期と慢性期が複合的におき、医療と介護が切れ目なく関わっていくことになります。医療や介護だけではなく国民の経済的負担も急増します。まさに私たちは時代の転換期に直面していると言えます。
近年、サイエンスライターであるデイビット・エプスタインは「RANGE」という著作のなかで世の中がますます専門化、スペシャリストを求めているようにみえるが、キャリアにおいて真に必要なのは幅広く初めて様々なことを経験し、多様な視点を養いながら成長することであると主張しています。想定外の問題には、多彩な経験と多様な視点による「総合的な能力」によって解決されるとしています。これからの医療では、「専門性」だけではなく「総合性」も求められているのです。
「専門家」集団による総合診療科
一方で、今の医学と医療の進歩は目覚ましく、かつてのように一人の総合診療医が日々更新される最新の知識や技術の全てに追随することは恐らく不可能です。循環器の領域だけでも、2021年は8つの新たなガイドラインが発表されており、1つの領域ですら全体を熟知するのは難しい状況が生じています。武蔵小杉病院の総合診療科は、多様な背景を持った専門医が集まり、「専門性」と「総合性」が両立できる診療と研修体制の確立を目指しています。それぞれの専門医が集まって議論することで、どの分野も最新の知識をもって対応することが可能です。同時に、当科にローテーションする専門医の先生方も総合的な知識や経験を広げることができます。専門性という軸を持った医師は、高い視点から総合的に俯瞰する能力を持ち合わせます。また、専門的な研究・診療経験は総合的な病態把握にも大きく生かされます。組織としてだけではなく、個人としても、広さと厚みを兼ね備えた総合診療を、私たちは目標としています。
「人生100年時代」の医師としての生涯教育
生涯の資格を有する医師のキャリアは他の職種に比べ長く、そしてマルチステージです。専門医療機関やアカデミアで定年を迎える医師はごく一握りあり、40-50代でその活躍の場を徐々に地域の診療所における一般診療に移行しています。特に、外科系専門医も、体力の衰えを理由にメスを置き、地域に診療所や訪問診療に従事するケースも少なくありません。また、女性はライフイベントのため研修を中断したり、あるいは折角取得した資格も更新できず、専門医の資格を持たない医師が男性より高率であることが問題になっています。私たちは、このような先生方に学びなおしの機会を提供し、「総合診療医」として、セカンドキャリアの道を拓いて欲しいと考えています。2021年武蔵小杉病院は新しく生まれ変わりました。新しい街にできた新しい病院の総合診療科で一緒に働く先生方をお待ちしています。
